館長あいさつ

附属図書館長 米田昇平(経済学科 教授)

 学生の頃は図書館地下の喫茶室が大事な居場所の一つだったことを思い出す。紫煙の煙る薄暗い一隅に陣取って、コーヒーを飲みながら、借り出したばかりの本を眺めるのが至福の時間だったような気がする。ひどい喧噪が支配していたから、そんなところでじっくり読めるはずもないのだが、軽々しくはない知の世界を垣間見るにはむしろふさわしい空間のように思えた。大学生であることの幸福感に包まれてもいた。

 今では、IT技術の進歩のおかげというのか、研究室にいながらにして17世紀、18世紀のヨーロッパの古版本をダウンロードして読むことができる。本を読むことが仕事なのに、図書館で本をあさる機会もめっきり減ってしまった。利用者の減少はどこの大学図書館でも悩みの種となっているようで、最近では、学生の共同自主学習のスペース(ラーニングコモンズ)を図書館のなかに設けるなど、利用を促すためのいろいろな試みがなされている。しかし学習室であれ、閲覧室であれ、自分の居場所を定めて、読書や学習に励んでいる学生は、少なからずいる。この点では、図書館の風景は実はそんなに変ってはいないのかも知れない。

 本と向き合い、自分と向き合う。あるいは知の世界を一人彷徨う、いずれも孤独な作業だが、この孤独を抜きにしては習得がかなわぬ知識というものもある。是非、図書館のなかにそうした自分だけの居場所・世界を見つけてほしい。図書館は、共同自主学習の場であり、試験勉強の場であってよいが、孤独に「なにか」と向き合う場でもある。館長としては、こうしたことを頭に置いて、図書館の蔵書の充実を図り、この貴重な知的資源がいっそう有効に活用されるよう努めていきたい。