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理事長室より

書棚のこと(2014年4月3日)

 新年度が始まった。春爛漫、桜が満開である。花見を楽しんだひとも多いことだろう。4月は桜であると同時に、人々の移動の時期でもある。新入生諸君のなかには初めて一人暮らしをはじめる人も多かろう。私も18歳のときに一人暮らしで浪人生活をスタートさせた。下宿の二階から、トタン屋根に雨がはじける音を聞きながら、静かに物思いにふけったことを思い出す。
 ひとの移動には新たな住まいづくりが必要となる。また、新年度を迎えて部屋の模様替えをする人もあろう。学生にとって書棚は大切な備品でありたい。私も書棚を設けて少ない本を並べたものである。そして、本が少しずつ増えていくのを喜びとした。今回取り上げた「書棚のこと」は個人の書棚のことではなく、書店の書棚のことである。本屋さんはどのように「書棚」をつくるのか、というテーマである。個人でも書棚に並べた本を見ると、その人の思想が分かる、と言われる。書店も同様で、書棚をみれば本屋さんの思想が見えてくる。今回はそんな話題である。
 朝日新聞の土曜日版の「フロントランナー」欄(2014年3月15日付)にブック・コーディネーター内沼晋太郎さんが紹介されていた。内沼さんは「本を買いたくなる本屋ってどんなだろうと考えた結果」、2年前、ビールが飲める本屋「B&B」を東京・下北沢に開店した。異例ずくめの店で、本棚も売り物で、著者らを招いたイベントが毎日開かれており、開業以来、書籍の販売単体で黒字だという。
 本棚作りを手がけたのは、2005年に雑貨や洋服などのコンセプトストアの壁に、カウンターカルチャー関係の本の棚を設けたことにはじまる。以来、さまざまな手法で本屋作りに取り組んできた。こうした手法は、出版社や大手書店が取り入れ、本屋の風景を変え始めている、と記事は伝える。
 この記事を読んで、内沼さんとは少し異なるが、独自な書店の棚づくりの試みを記録した本のことを思い出した。佐野衛『書店の棚本の気配』(亜紀書房、2012年)である。佐野さんは、私の知人の知り合いの夫という遠い関係の方で、まったく面識はないが、神田の東京堂書店の元店長である。この本のことを知ったのは、朝日新聞の書評欄の「著者に会いたい」のコーナー(2012年10月21日付)で紹介されたからである。福岡の丸善で購入し興味深く読んだ。この本に独自の「書棚づくり」の試みが紹介されていた。東京堂書店の通りをへだてたビルの1階に「ふくろう店」を2004年に開店することになり、そのトップバッターが「坪内祐三ワンダーランド」だった。坪内祐三氏についてはそれまでまったく知らなかったが、「読書界」ではよく知られた評論家だそうで、文学などの世界から縁遠くなった私の無知を思い知らされた。この坪内コーナーは坪内氏が選定した著書を手配するわけだが、選定本だけでは棚が全部埋まらず、坪内氏が選んだ古本で埋め合わせ、その後も坪内氏は棚が空くと古本持参で補充したそうだ。坪内コーナーの選書リストは『en-taxi』2004年春号に掲載された。「ふくろう店」には、紀田順一郎、鹿島茂の二人も棚作りに参加し、さらに、鹿島茂氏推薦の書棚販売に協力し、書店に展示場所を設けた、という。こうした佐野の試みは「立花隆フェア」に端を発しているようである。同著によれば、1997年に立花隆が第1回司馬遼太郎賞を受賞したのを記念して「立花隆フェア」を企画した。著作リストを作り、著書を揃えて販売し、フェア後には「立花隆の棚(コーナー)」として継続した。また、立花隆『天皇と東大 大日本帝国の生と死』全2巻(文藝春秋、2005年)をめぐる資料群の展示販売と立花隆講演会を企画・実施している。
 さて、おふたりの本についての考え方は異なっている。佐野さんは、「大学生が本を読まなくなっているという報告もあるが、就職が第一命題で、そのぶん卒業してから本を読む人は増えている。つまり一般人に読書家がいるということである」としている。どうも大学生にはあまり多くを期待していないようにみえるが、読者層をある程度限定して、著者と読者をつなぐ本棚づくりや様々なイベントを行い、成果をあげてきた。内沼さんは、「まるで若者のせいで本が売れないかのようです。そうでしょうか。本を作る人、届ける人、売る人は、面白い本を薦めることはあっても、本そのものの面白さを伝える努力をしてきたのでしょうか」と問いかけ、「とにかく、人の集まるところに、どんどん本を投げてみようと思っています。それがいまの仕事のメーンかな」ということで、本の魅力を伝えることに取り組んでいる。
 本学においてはどうだろうか。ゼミではテキストを軸に関連する書籍の紹介、本の読み方の指導など努力が払われている。また読書感想文コンクールもひとつの試みである。図書館の蔵書検索システムも有効に働いている。しかしながら、である。学生が本を読まない状況はあまり変わりないようにみえる。私は図書館の選書に関して学生選書委員を公募して、その選書委員による選書方式の提案したことがあるが、いまだ実現をみていない。また、図書館と生協書籍担当が協力して、図書フェアをやってみるのも面白いかもしれない。内沼さんや佐野さんの試みにヒントをえて、本の魅力を学生たちの伝える努力を重ねることが大切である。ともかく何もしないで手をこまねいているだけでは、何らの改善もない。本をめぐる諸諸の試みがなされることを期待したい。
 私のささやかな試みは、「理事長室より」で取り上げた本を理事長室の書棚に並べ、だれでも気軽に読めるようにすることである(もちろん貸出しOK)。そして、希望があれば、読書サロンを開くことも考えている。いかがでしょうか。