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理事長室より

古事記ガール(2014年5月19日)

 「古事記ガール」なるテレビを見た。この「古事記ガール 日向路を旅する」は、古事記編纂1300年を記念して制作されたもので、2013年3月13日に放送された。私が見たのは2014年3月24日にBSプレミアムで再放送されたものである。「古事記ガール」とは、古事記の神話に因んだ場所を訪ねる女性ということであり、古事記編纂1300年とこの番組の影響もあって、古事記の世界めぐりはかなりのブームになっているという。番組は、女優の黒谷友香が古事記ガールになって、宮崎県内の古事記に因んだ場所を訪ねるというもので、阿波岐原(あはきはら)、高千穂峡、天岩戸神社、西都原古墳群、青島神社などを訪ねた。黒谷は、古事記の朗読会に参加しているとのことであり、各所で古事記の世界に触れ、「わぁ、すごーい」「うーん、おいしい」「はぁ、こうなんだ」という感嘆語を連発しながら古事記ワールドを楽しんでいた。
 番組は日向路に関連する古事記神話とそれに因んだ場所についてよくわかるように紹介していた。しかし番組を見たときに、私はちょうど西郷信綱『古事記注解』を再読中だったので、番組の内容にかなりの違和感をもった。アマテラスがこもったという天の岩屋戸や八百万の神々が集まって相談したとされる天安河原(あまのやすかわら)に因んだ場所が紹介された。神社縁起や信仰にかかわることであるので、あえて異を唱えることではないが、天の岩屋戸や天安河原は天の世界ことであって、当然のことながら地上の話ではない。当代において、古事記神話を取り上げるとすれば、神話の場所とそれに因んだ現実の場所との関係について適切な解説が必要なのではないか。
 多くの人たちにとっても、古事記の名前は知っていても、またアマテラス、スサノヲ、大国主神、海幸彦・山幸彦の話は知っていても、古事記そのものを読破したひとは少ないのではないだろうか。私は西郷信綱『古事記注解』(全8巻、ちくま学芸文庫、参照は(1)123のように示す)によって古事記全巻を通読しただけである。そこで、天孫降臨の地、日向にかかわる神話のいくつかについて、主に『古事記注解』によりつつ、考えてみたい。
 番組が取り上げた阿波岐原(あはきはら)と高千穂には、「竺紫の日向(つくしのひむか)」という枕詞がついている。ツクシは九州、ヒムカは日向の国ではなくて日に向える地という神話的意味であり、実の地名というよりも神話上の名と受け止めるべきだと、西郷はいう(『古事記注解』(1)275)。したがって、阿波岐原の御池でイザナキが禊を行ったときに生まれたとされるアマテラスとスサノヲも日向の国ではなく、高天の原の生まれである。
 天孫降臨については、アマテラスの孫にあたるホノニニギが「竺紫の日向の高千穂のくじふるたけ」に天降ったとされる。なぜヒムカかといえば、なかなかヤマトに服属しなった九州南部、すなわち熊曾(くまそ)国に対抗するために、ヒムカの高千穂に降臨した。日向国が置かれたのは、襲(ソ)の国に棲む隼人の服属と関連している。高千穂は、高く秀でた山であるとともに、山のごとく豊かな稲穂を暗示している。したがって、西郷説では宮崎県の高千穂を意味しているとは限らないことになる。
 また、天孫降臨は大嘗祭と深くかかわっており、天孫降臨と天の岩屋戸とは同根の話で、大嘗祭のうち穀霊による王の誕生・即位と冬至による太陽の死と復活とを主とする話にわかれて、説話化されたものという(『古事記注解』(2)171,190、(3)208、(4)13,26)。
 ホノニニギとコノハナサクヤビメの子がホヲリ(山幸彦)、ホヲリとトヨタマビメ(豊玉姫)の子がウガヤフキアエズ、ウガヤフキアエズとタマヨリビメ(玉依姫)の子がイワレビコ(神武天皇)と連なることになる。もちろん神武は実在の人物ではなく、神話上の存在である。
以上の論評は、「古事記ガール」ならぬ「古事記シニア」として、素人の立場からのものである。少しでも古事記に関心をもったひとには、西郷信綱の『古事記の世界』(岩波新書、1967年)、『日本古代文学史』(岩波同時代ライブラリー、1996年)をお薦めする。

 余談。古事記に関連したものとして、手塚治虫の『火の鳥 黎明編』がある。この作品は手塚マンガの最高傑作のひとつと思っている。このマンガに最初にふれたのは、東京・根津のそば屋さんだった。院生時代に文京区の弥生町に住んでいたことがあり、根津でよく食事した。そのそば屋さんにマンガ雑誌『COM』(虫プロ商事、1967年~1971年)が置いてあり、食事をしながら『火の鳥 黎明編』を読んだ。連載ではなく、黎明編を1冊にまとめた別冊だったと思う。何回かかけておおよそ読んだように記憶する。その後、『火の鳥』の全巻を購入して再読した。また、映画「日本誕生」(東宝、1959年)も観たことがある。三船敏郎がスサノヲとヤマトタケルの二役を演じた。超娯楽大作仕立てで、三船の他では、司葉子が弟橘姫、乙羽信子のアメノウズメ、田中絹代の倭姫などが記憶に残っている。三船を除くと女性ばかりですね。