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理事長室より

「仏教の社会と研究者の社会」(2015年4月20日)

 NHK Eテレに「100分de名著」という番組がある。古今の名著を25分4回、すなわち100分で読み解くという内容である。放送の前には、NHKテレビテキストも発売される。内容的には放送と同じであるが、放送は指南役と司会者とのやり取りで進められるので、素人(司会)と専門家(指南役)のやり取りが面白い。私は比較的新しい視聴者であるが、私もみてますという人も多いかと思う。
 さて、4月の名著は「ブッダ 最期のことば」(指南役佐々木 閑(花園大学教授)、司会伊集院光・武内陶子)である。第3回「諸行無常を姿で示す」(2015年4月15日放送)のなかで、仏教の社会構造からみた研究者社会の在り方について、興味ある考え方が示されていたので、紹介したい。

 仏教は、出家修行者(僧侶)と在家信者という二重構造の上に成り立っている。出家修行者は、修行によって涅槃に入ることが目的であり、特別な生き方をするので、一般社会のなかで仕事をして生きていくことができない。その代わり、立派な修行の姿を見せることで、一般社会に支えてもらう。それが布施である。これに対して、在家信者は布施(善行)を行うことで、世俗的な果報(お金がもうかる、病気にならないなど)があると考えて布施する。なお、この二重構造は固定したものでなく、人は状況に応じて、二つの世界を自由に行き来することができる。

 このような仏教の二重構造は、様々な人間社会にもみられる。研究の世界で考えてみると、研究者と一般社会という二重構造が考えられる。研究者にとって研究は自分の好きな生きがいであり、仕事(経済活動)ではないので、研究では食べていけない。番組では宇宙物理研究者によるビッグバンの研究が例示されたが、そこで布施が必要となる。研究者は絶対に正しい研究をうそ偽りなくやっている姿を示すことによって、研究費、給料、補助金などというかたちで、社会からお布施をえるのである。ところが、最近では、研究費を取ってくることが研究の目的になってしまうことがあり、本末転倒である。それはお布施をもらうために修業していることと同じことになる。
 このような構図を理解するによって、生きがいを追求する社会の正しいあり方が理解できる。これは理想であって現実ではないが物差しである。そこからずれないようにして、自分の生きがいを徹底していくことによって、新しいイノベーションが起こってくる。その意味でこの二重構造が文化の発生源となる、と佐々木指南は強調した。以上が番組紹介である。

 現実の研究世界には、大学や研究機関などがある。大学は研究だけでなく、教育というサービスを提供することで授業料などの学生納付金を対価としてえている。かつてのドイツでは、私講師という制度があり、講義を聴講する学生が支払う聴講料が生活を支える収入となっていた。また、大学や研究機関では、研究成果、例えば特許の使用に対する対価として特許料をえていることもある。このような事例では、一般の経済社会のルールが成立していることになる。しかしながら、大学・研究機関のなかで、教育・研究というサービス商品による収入だけで運営資金をまかなえているところはほとんどのないと考えられる。ほとんどが運営費交付金や私学助成、各種補助金などのお布施を受けて経営が成り立っているのである。その点では仏教社会と変わらない。したがって、「研究者は絶対に正しい研究をうそ偽りなくやっている姿を示すこと」が求められており、昨今しばしば報じられる研究不正行為や研究費不正使用はあってはならないことなのである。