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理事長室より

「明治日本の産業革命遺産」(2015年5月8日)

 ユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議(イコモス)」は、日本が推薦を行っている「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」について、推薦案件の名称を重工業と石炭に絞り込み、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」と変更したうえで、ユネスコの世界文化遺産への登録を勧告した。5月4日夜、世界遺産センターがイコモスの勧告内容を日本政府に伝え、その内容がメディアによって大々的に報じられた。世界遺産登録の正式決定は、イコモスの勧告を受けて、7月の世界遺産委員会で決まる。過去5年間にイコモスが登録勧告し、世界遺産委員会で判断が覆った例はないという。しかし、今回の登録勧告資産には、朝鮮半島出身者の「強制徴用」が行われた施設が含まれているとして、韓国が登録に強く反発しており、最終決定は世界遺産委員会の決定を待つことになる。
 「明治日本の産業革命遺産」の内容については、繰り返される報道によってよく知られるところとなったが、その特徴は、(1)8県23資産という広域的で多様な資産で構成され、全体としての物語性が重視されていること、(2)長崎造船所、八幡製鉄所、三池港といった稼働中の施設が含まれ、稼働と保存の両立を図ることが必要であること、(3)廃墟と化しつつある端島炭坑(軍艦島)については保全計画の策定が求められていることなどである。構成資産の所在地の関係者などの喜びの声も伝わってきている。喜びは大切にしたいが、日本の世界遺産のなかには、観光目当ての一時的な盛り上がりにとどまったものもあるようだ。今回は、近代日本の礎となった産業遺産の意義を改めて考える機会とするとともに、その遺産を末永く後世に伝える義務を負ったことにもなる。
 今回の構成遺産に関する個人的な感想を記しておきたい。下関市にとっては、前田砲台跡(下関戦争の激戦地)及び六連島灯台(現存最古の石造円形の灯塔)が今回の世界遺産のストーリーからは離れているということで、構成資産から外されたことは残念であった。
 また、日本最大であった筑豊炭田の炭鉱遺産がすべて外されたことも残念なことであった。とはいえ、副産物はあった。当初には参考資産とされていた「山本作兵衛炭坑記録画」は専門家委員会の海外委員から高い評価を受け、今回の世界遺産から切り離して、世界記憶遺産として申請すべきとのアドバイスを受け、2011(平成23)年5月に世界記憶遺産に登録された。炭坑夫出身の絵師・山本作兵衛による素朴さと正確さを併せ持つ独特な画文は、炭坑と炭坑夫の在りようと本質を今に伝える貴重な文化遺産である。作兵衛さんの炭坑画は墨絵と水彩画であり、剥離などが懸念されていたが、きちんとした保存措置が進められていることは喜ばしいことである。炭坑遺構としては、構成資産候補であった旧目尾(しゃかのお)炭坑(筑豊で蒸気機関を使用した最初の炭坑)と三井田川鉱業所伊田坑(炭坑節で唄われた巨大煙突が残る炭坑)は除外されたが、飯塚市と田川市によってそれぞれ遺構の発掘調査が進められている。もうひとつ、筑豊観光の目玉となっている旧伊藤傳右衛門邸も構成資産候補であった。住居は構成資産から外されることになったが、筑豊の炭坑王と称された伊藤傳右衛門の旧宅は筑豊の炭坑主による贅を尽くした邸宅であり、筑豊の観光名所となっている。
 今回の「明治日本の産業革命遺産」の登録勧告は折角の機会でもあり、この構成資産のもつ多様なストーリーを学びつつ、構成資産となっている各地の産業革命遺産を見て回るのも楽しみなことであろう。