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理事長室より

「学内茶会」(2015年6月8日)

 本学の開学記念日である6月1日(月)に茶道部による学内茶会があり、ご案内があったので出席しました。受付で「理事長ですか」と声をかけられ、正客の席に案内されました。正客としての務めは十分に果たせたとは言えませんが、連客を代弁していろいろと尋ねたりして、茶席らしくなるように心掛けたつもりです。茶道部指導の高木玉子先生から茶席や部員のことなどお話をうかがい、時の経つのを忘れるほどでした。そのなかで、とくに印象に残ったことが2つあります。

 ひとつは掛軸の文字で、亭主役の学生が「無事是貴人」と読んでくれました。「何事もなく過ごすことは尊いことであり、これができるのは貴い人だ」という意味にとれます。あとで調べてみますと、この出典は『臨済録』にある「無事是れ貴人(きにん)、但(た)だ造作すること莫(なか)れ。祇(た)だ是れ平常(びょうじょう)なれ。你(なんじ)、外に向かって傍家(ぼうけ)に求過(ぐか)して、脚手を覓(もと)めんと擬(ほっ)す。錯(あやま)り了れり。」という禅語とのこと。「無事」とは、あれこれと心を労し、外に向かって脇道にそれ、手助けを求めることではなく、平常のありのままであることであり、これこそが尊いことで、「貴人」、即ち「全き人」(悟り、仏)に通じている、と理会しました。このように考えてみますと、「無事是貴人」は、奥深い茶の心をよく示す言葉であると受け止めました。

 もうひとつは茶杓についてです。高木先生が京都で茶杓を注文された際に「銘はどうされますか」と問われ、「無」と応えられたとのことです。私は茶の精神にも禅の世界にも明るくありませんが、「無」は、「趙州無字(じょうしゅうむじ)」としてよく知られた公案(参禅者に提示される課題)に関わる言葉です。この公案は「趙州和尚、因(ちな)みに僧問う、狗子(くし)に還(かえ)って仏性有りや也(ま)た無しや。州云く、無。」というもので、無門関(中国宋代に無門慧開禅師が編集した公案集)の第一則です。狗子(犬)にも仏性(仏としての本性)があるんですか、無いんですかという問いに対して、趙州は「無い」と応えた、それが分かるかというわけです。参禅者は何回も何回も自己の見解を示すが、毎度師家からダメだしを受けます。そして、時機が熟すると、廓然として意識と対象との隔たりがとれ、二元相対を超えた絶対無文節の場、即ち「無」が現成するとされています。禅では「見性(けんしょう)」といって、第一の関門を透って悟りの世界に一歩踏み入ることができた、ということになります。「無」は茶道においても、目指すべき境地ではないかと思い、高木先生はご自分の茶杓にすばらしい銘をつけられたと感じ入った次第です。

 「無事是貴人」といい、「無」といい、今回は茶道の精神と禅の世界が極めて近いことに改めて気づかされました。そして、私も少しは「無事」の心に近づくことができれば、と心新たに致しました。この日は大変暑く、汗をかきながら(実は冷や汗?)でしたが、無事茶席を終え、花活けの花ショウブ、あじさい、ホタルブクロなど季節の花々に目をやりながら、ほっとしました。