3 日韓半導体産業の新しい競争と協調1)
〜半導体製造装置部門と
デバイス部門との連携を中心に〜

関 野 秀 明

1 は じ め に

 2002年初現在、世界的なIT、半導体不況は回復の兆しすら見えない状況から徐々にではあるが世界的な需給調整の過程へと移行しつつある。代表的な半導体デバイス製品であるDRAMの市場価格も2001年年初以来9割以上も暴落したのち、2001年末を底に採算ラインを回復しつつある(128MbitDRAMが3ドル台へ)。
 しかしここでの「世界的な需給調整」とは、世界的な半導体メーカーの大規模なリストラと提携の進行であり、日韓の代表的メーカーの「市場退出」「淘汰」に他ならない。代表的な動きだけを見ても、東芝のDRAM部門撤退(主力工場の米マイクロンヘの売却)2)、韓国ハイニクスの経営危機と米マイクロンとの「戦略的提携」交渉3)など、米マイクロンと韓国三星との二強体制への移行が決定的になりつつある。
 このような状況をうけて、もっとも競争的な側面の強かった半導体産業全体においても、業界内部の統合再編、淘汰の進行に伴い、さまざまな立場から「協調」、「分業」、「補完」的関係が模索されはじめている。
 以下に本論は、「関門地域共同研究(関門地域の国際化)」の一環として次のような問題を検討していく。第一に、日本側の典型的な「分業」「補完」論を示す、九州経済産業局「九州アジア国際化レポート2001〜深化する環黄海地域の経済交流」の日韓「水平分業」論を検討する。同時にそのような日本的「分業」論に対する韓国側(今回は三星経済研究所)の批判をも検討し、日本側の「分業論」の問題点を明らかにする。
 第二に今度は逆の立場で、韓国側(三星経済研究所4))の構想するモジュール比較優位に基づく「分業」論を紹介、検討し、その問題点を明らかにする。
 第三に、前二者とは異なる視点からの日韓連携を模索するために、日韓における半導体デバイス貿易と半導体製造装置貿易の関係、日本製造装置メーカーと韓国デバイス・メーカーとの関係を分析する。
 第四に暫定的な結論として、この「関係」のもつ経済的意味を明らかにしたい。

図2 日本から韓国へのMPUの輸出

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出所)九州経済産業局『九州アジア国際化レポート2001』,2001年第3−2−1図

2 九州経済産業局の構想する日韓半導体「分業」論(図1)

 九州経済産業局は「九州アジア国際化レポート2001」第3部において「半導体産業(進展する九州・韓国間の水平分業)」と題し、以下のような製品別の水平分業が進展していると分析している。
 まず韓国側の三星、現代、LGなど財閥系巨大デバイス・メーカーがその高い製造能力を活かして汎用部品であるDRAMなどを日本へ輸出していることが、明らかにされている。この汎用部品DRAMは日本においてパソコン、FAX、プリンターなどに組み込まれている。それに対し日本側では、総合家電系巨大デバイス・メーカーが汎用部品であるDRAM生産から特定用途向けで付加価値の高いシステムLSI、マイクロコンピュータなどの生産にシフトし、韓国で携帯電話、家電などに組み込まれていることが明らかにされている。
 確かに、このような傾向が「現在」存在することは財務省『貿易統計』各月データからも容易に看て取ることがでさる(図2、3、4、5)。ここでは日本から韓国ヘシステムLSIの中心部分であるマイクロ・プロセッサーが一方的に輸出される反面、韓国から日本へDRAMの一方的輸入がなされていることが明らかである
 しかしながら問題は、この九州経済産業局のレポートが、このような日韓の半導体デバイス貿易の現状を「機能や特性に応じた水平分業」と捉え、日本:高付加価値生産、韓国:低付加価値生産という、ある意味、階層的な分業関係を覆い隠そうとしていることである。
 そしてこのような「水平的」という日本側の命名とは別に、その実態の「階層的」性格は、この関係の不安定性、非永続性を意味しているということもまた明らかである。今回の「関門地域共同研究」の調査においてまず明らかであったことは、韓国側が上記のような日本側が思い描く分業関係の継続を「とうてい、受け入れがたいもの」(三星経済研究所ヒアリングより)と考えているということである。そして韓国側がシステムLSIなど非メモリ分野の育成、強化こそが今後の韓国半導体産業の均衡的、安定的発展に不可欠の課題と考えていることも明らかである。
 「システムLSIなど有望分野を成長エンジンとし、メモリ依存の限界を乗り越える。」
 「三星、ハイニクス、など主要半導体企業はシステムLSI専用ライン着工、既存ラインの転換などをつうじてシステムLSIを強化する。」(三星経済研究所提供資料より)
 以上から、日本の意図する分業が今後、成立しづらいこと、システムLSI開発という新分野もDRAM、大型液晶5)と同じく日韓の過当競争に陥るであろうことが予想される。

図2 日本から韓国へのMPUの輸出
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図3 韓国から日本へのMPUの輸入
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図4 日本から韓国へのDRAMの輸出
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図5 日本から韓国へのDRAMの輸入
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出所)財務省『貿易統計』より著者作成

3 韓国側(三星経済研究所)の構想するモジュール比較優位に基づく「分業」論(図6)

 日本側の構想する「分業」を批判しシステムLSI部門の強化を目指す韓国側も、全く別の思惑から独自の国際分業を、「戦略的提携強化」の名の下に構想している(三星経済研究所提供資料より)。
 その内容の核心は「独自技術覇権主義からグローバル提携を通じた技術開発に戦略転換」していくことである。そこでは、現在、一企業がすべての製品、部品を開発、供給することは困難であるという前提が存在している。つまり新たなシステムLSIの開発においても、自企業、自国の技術開発パターンとその速度に依存する場合、より多くの資金がかかり、技術、製品を開発しても世界のトレンドに遅れる結果を招く可能性が大きい、という結論に立っているということである。よって

図6 三星経済研究所の構想する半導体分業
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出所)ヒアリングより

「グローバル提携戦略」に基づき、外国企業との間で研究開発費用負担を分散させ、逆に国際販売ルートを共同で確保することが成功の近道と考えているのである。
 そしてこの戦略を推進し参加していくために鍵になるのが自国(自社)の比較優位の積極利用モジュール比較優位に基づく分業関係の構築である(図6)。
 ここでは、完成品の組立て、生産はどこの国、地域で行なわれても自国、自企業にとって本質的な問題ではなく、部品、モジュールの設計・生産において比較優位を確立し(図中の○印)、他の国、地域に対し生産・供給していくこと(図中の→印)こそが今後の競争の核心、本質であるという思考が表明されている。今後の半導体デバイス製品の一層の多様化を睨んで、自国自企業の一貫した技術確立にこだわらず、「グローバル提携戦略」という分業・協調に基づく比較優位確立の競争を展望しているのである。
 しかしながら、このような韓国側の展望する「比較優位に基づくグローバル提携戦略」論も大きな問題を孕んでいると言わねばならない。つまり韓国側の構想に出てくる各国、各企業の比較優位性がそれぞれ何に基づく比較優位なのか、という問題である。例えば、より高性能なシステムLSIを開発、製造する上でも、MPUやロジックの設計能力と汎用部品であるDRAMの製造能力とでは、それぞれの比較優位として棲み分けたとしてもその能力のもたらす付加価値において全く違うのではないか、ということである6)。これでは、現状のIT産業全体における不均等発展の問題、アメリカ系企業の策定したグローバル・スタンダードに基づいてアジア各国・地域がその製造能力を競争するという「従属的競争戦略」7)の問題を継続していく危険性が高いといわざるを得ない。

図7 ウェハープロセス関連製造装置の位置づけ
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出所)前田和夫『はじめての半導体製造装置』工業調査会,1999年,p66の図3.1を一部捨象して掲載

図8 ウェハープロセスで使用される半導体製造装置
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出所)前田和夫『はじめての半導体製造装置』工業調査会,1999年,p38の図1.8とp102の図5.1をもとに著者作成

4 日韓における半導体デバイス貿易と半導体製造装置貿易の関係、
日本製造装置メーカーと韓国デバイス・メーカーとの関係

 これまで九州経済産業局と三星経済研究所それぞれの構想する半導体産業における分業、提携について検討してきた。そして改めて、半導体デバイス生産における分業、提携の困難さが明らかになった。どちらの分業、提携構想も日韓、あるいは日米韓の間における収益の階層性を固定化せざるを得ず、互恵的で補完的な関係とは程遠いように思われる。
 それでは競争的な半導体デバイス生産部門内ではなく、有機的関連をもつ半導体関連産業間での関係、半導体製造装置メーカー(ベンダー)と半導体デバイス・メーカー(ユーザー)との関係において、日韓の互恵的で補完的な関係は展望できないであろうか。本節では、まず『半導体産業計画総覧』各年度版に依拠しながら日本の半導体製造装置産業の現況、世界市場での地位を明らかにする。その上で、財務省『貿易統計』月別データに依拠して日韓における半導体デバイス貿易と半導体製造装置貿易の関係を明らかにする。そして最後に、今回の「関門地域共同研究」における調査、ヒアリングにも依拠して日本製造装置企業と韓国デバイス・メーカーとの関係の実態を明らかにする。
 まずデータのまとまっている直近の3年間における日本半導体製造装置産業の現況は次のとおりである。

図9 日本製半導体製造装置種類別販売高
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出所)『半導体産業計画総覧』各年度版より著者作成

 ○97年度
  国産装置販売高は1兆1943億9400万円(前年度比10.5%増)であった。ちなみに産業の規模を比べるべく半導体デバイス産業の97年度総生産額を示すと、国内デバイス・メーカー上位34社の総生産額が6兆145億円(前年度比2.3%増)ということになる。
  国産装置の輸出は7482億円(前年度比24.2%増)で輸出比率は57%であった。また外国製装置の輸入は1726億8700万円(前年度比1.2%減)であった。
  (『半導体産業計画総覧』1998年度版、538〜538頁)

 ○98年度
  国産装置販売高は8232億8600万円(前年度比37.6%減)であった。国内デバイス・メーカー上位34社の総生産額は5兆3869億円(前年度比10.4%減)である。国産装置の輸出は4857億4000万円(前年度比35.1%減)で輸出比率は59%であった。また外国製装置の輸入は1070億円(前年度比38%減)であった。(『半導体産業計画総覧』1999年度版、531〜533頁)

 ○99年度
  国産装置販売高は1兆1302億円(前年度比37.3%増)であった。国内デバイス・メーカー上位34社の総生産額6兆913億円(前年度比13.1%増)である。国産装置の輸出は6442億2000万円(前年度比32.6%増)で輸出比率は57%であった。また外国製装置の輸入は1446億円(前年度比35.1%増)であった。(『半導体産業計画総覧』2000年度版、597〜598頁)

 次に、世界市場での日本半導体製造装置企業の地位を1999年の販売高データから明らかにする(『半導体産業計画総覧』2000年度版、598頁)。世界の売上トップ10において1位はアプライド・マテリアル(米:54億5700万ドル)であり、2位に倍以上の差をつけ、92年以来の業界1位の座を守りつづけている。しかしながら、2位以下には日本の有力製造装置メーカーが名を連ねている。2位は東京エレクトロン(26億3400万ドル)、3位はニコン(14億3000万ドル)、7位アドバンテスト(9億5500万ドル)、9位キャノン(7億5100万ドル)、10位日立製作所(7億4300万ドル)となっている。4位のASMリソグラフイ(蘭:12億7800万ドル)を除いて、上位10社のすべてが日米のメーカーで占められている。特に、「ウェハープロセスを代表する装置」「その導入台数でそのラインの能力、製造原価などが明らかになってしまう」(前田和夫『はじめての半導体製造装置』、20頁)と呼ばれる縮小露光装置(ステッパ)の世界市場全体において、ニコンが市場占有率1位(44.0%)、キャノンが3位(22.0%)など、最重要な装置市場で日本メーカーの市場占有率は非常に高くなっている(『半導体産業計画総覧』1998年度版、550頁)。

 つづいて、日本半導体製造装置産業と韓国半導体デバイス産業との関係を貿易統計から明らかにする。日本から韓国への主要な半導体製造装置輸出データは図10(縮小露光装置輸出)および図11(エッチング装置輸出)である。この図と元データから分析すると、直近の3年間において日本の縮小露光装置メーカーは韓国の半導体デバイス・メーカーに対し1台平均1億2780万円余の装置を293台販売し、約374億2700万円の売上をあげている。同じく直近の3年間において日本のエッチング装置メーカーは韓国の半導体デバイス・メーカーに対し1台平均1億9246万円余の装置を223台販売し、429億1980万円余の売上をあげている。
 これに対し、韓国のデバイス・メーカーはこれまた直近の3年間において、韓国の半導体生産の80%を占める主力輸出商品DRAMを1個あたり平均550円で6億2415万個販売し、3430億6000万円余の売上をあげている。韓国デバイス・メーカーから見ると、主要な2種類の製造装置輸入コストだけでDRAMの売上の23.4%にも達することになる。

図10 日本から韓国への縮小露光装置の輸出
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出所)財務省『貿易統計』より著者作成

図11 日本から韓国へのエッチング装置の輸出
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出所)財務省『貿易統計』より著者作成

 しかしながら、韓国の半導体デバイス・メーカーがDRAM部門での市場占有率世界一の座を維持していくためにも、この関係、日本装置メーカーと韓国デバイス・メーカーとの関係は継続していかざるを得ないものと考えられる。現在、デバイス・メーカーはIT、半導体不況、半導体デバイス価格の暴落により利潤がでない状況にあると言われている。それにもかかわらず、コスト削減と高性能化のための技術トレンドは明確で、たとえばシリコン・ウェハーの8→12インチ化には三星電子全体で3000億円の投資が必要とされている(ヒアリングによる)。
 これは本来、無理な投資である。しかし、既存デバイス・メーカーはこの技術トレンドとロードマップに従って投資せざるを得ないだろうと言われている。状況はまさに、誰かがはじめると追従せざるをを得ない、そうでなければ脱落する、俗に言う「ゲームの状況」と呼ばれている8)。そして世界的な巨大デバイス・メーカーの生き残りのための設備投資は必然的に製造装置メーカーに対する巨大な投資需要を形成し続けるのである。次節で詳述するが、製造装置メーカーのメンテナンスなしに24時間以上設備を稼動させることはできないし、新しいデバイスやプロセスの開発も製造装置メーカーとの技術協力なしには不可能なのである。
 一例として、今回調査した三星電子と日本半導体製造装置企業との関係をあげると、三星電子の主な契約先日本装置メーカーは次のとおりである。
 1,Nikon,Cannon(photo equip.:Stepper)
 2,Tokyo Electron(CVD,Etcher,Sputter,)
 3,Advantest(Test equip.)
 これらの契約先日本メーカーは、三星電子最大の工場群がある天安に営業拠点をもち、三星電子天安工場内に製造装置メンテナンス技術者を常駐させ、24時間体制で調整、修理にあたっている(三星経済研究所ヒアリング、提供資料)。

5 この「関係」のもつ経済的意味

 最後に、半導体デバイス・メーカーと製造装置メーカーとの関係が固有に持っている経済的意味合いを、装置導入と維持にかかわる技術的特性の側面から検討する。

 半導体製造装置導入におけるデバイス・メーカー(ユーザー)と装置メーカー(ベンダー)との関係はおおよそ図12で表される。半導体製造装置の導入が他のものづくり産業の設備機械導入と事情を異ならせている最大の原因は、各装置に絶対的評価、処理、取扱のための普遍的なレシピと言うものが存在しないということである(前田和夫『はじめての半導体製造装置』、179頁)。各デバイス・メーカーは固有の技術を持ってライバルとの差別化を図っているため、用いられる材料、レシピ、したがって装置の仕様にも互換性はなく、導入される装置はユーザーごとに全く別個の仕様書、図面、オプションが必要とされるのである9)(前田、前掲書、179頁)。
 逆にいえば、「共通化」「互換化」も含めた装置としての成熟を見ないままに世代交代が迫られていることが現実であり、だからこそ他産業における設備機械の導入以上に両者の入念な情報交挽、共通の認識に基づく意志決定が求められるのである。
 デバイス・メーカーは自らのデバイス、プロセス開発の終了段階でその実現・量産に必要な装置の槻要を決定する。そして市販装置の資料調査にかかり、装置メーカー施設でのサンプル作成、デモンストレーションによるコンテスト10を行う。その後、さらに多面的な性能評価を行い、機種(装置メーカー)の選定へ進む。ここでは各ユーザーごとの独自の比較基準によるコスト・パフォーマンス評価や当該装置の前注実績、サービス・サポート体制、装置メーカー自身の安定度、他社への納入実績と評判などが考慮される。機種(装置メーカー)の選定の後、価格と最終仕様を決定し、受発注、装置作成に至る。しかし、さらに納期間近になると装置メーカー側施設において詳細なチェック・リスト11)に基づくユーザー立会い試験が行われる。納入、接続、装置立上げにおいてはハード、ソフトウェアの動作確認、プロセス全体の立上げ、性能確認、検収条件確認が行われた後、ようやく装置の引渡し、オーナーシップの移管に漕ぎ着けるのである(前田、前掲書、180〜3頁)。

 装置の維持、メンテナンスにおいても、半導体製造装置は他産業の設備機械と大きく事情が異なる。装置メンテナンスにおける特性は図13で表される。半導体製造装置は非常に高価格であるため、稼働率の向上がデバイスの製造原価低減に大きく貢献する。しかし、装置としても生産ラインとしても、製造、設置件数の少なさと世代交替の早さ故に未成熟であり故障、トラブルが多いのが特徴とされている。よって装置のダウンタイム、故障して止まっている時間を減少させることがより重要でありそのための「メンテナンス特性」、メンテナンス「思想」の研究が進んでいる(前田、前掲書、184頁)。
 「メンテナンス特性の3指標」とは次のとおりである。
 1.MTBF(Mean Time Between Failures):装置故障までの平均時間(500〜1000時間)
 2.MTBA(Mean Time Between Assists):人手補助が必要になるまでの平均時間(1日1回)
 3.MTTR(Mean Time To Repair):装置修理のための平均時間

図12 半導体製造装置導入までの手順
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出所)前田和夫『はじめての半導体製造装置』工業調査会,1999年,p181

図13 ウェハープロセス設備の故障寿命特性曲線(バスタブ特性)
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(堀切:”生産システムの現状と課題”,サイエンスフォーラム主催”JSTフォーラム”資料,p.1,
1998年2月および坂本雄三郎『日立にみる半導体工場の現場経営』,1990年,日刊工業新聞社刊により作成)
出所)前田和夫『はじめての半導体製造装置』工業調査会,1999年,p190

 この3つの特性に対処する3つのメンテナンス「思想」とは次の3つである。
 a.壊れたら直す BM(Breakdown Maintenance):事後保全
 b.壊れにくくする CM(Corrective Maintenance):改良保全
 c.壊れる前に直す PM(preventive Maintenance):予防保全
 まず初期不安定期におけるCMの後、継続的にPMを施すことでMTBF、MTBAを延長することが重要である。次に、装置としてPMをタイミング良く、短時間で実施する「優れたメンテナンス性」の思想を盛り込んで設計を行い、情報をユーザーと共有することが求められる。よってここでもユーザー、ベンダー両者の緊密な関係が必要不可欠である。
 以上、装置導入および維持、メンテナンスの観点から製造装置メーカーとデバイス・メーカーとの密接不可分な関係を明らかにしてきたが、このことはとりもなおさず、日本国内に製造装置メーカー、その研究拠点、マザー工場が存在することの意味を説明してくれる。まず、デバイス・メーカーの成長、発展にとって製造装置メーカーとの、他産業以上の関係の密接性が必要であることは、デバイス・メーカーにとって製造装置メーカーの研究拠点、マザー工場との地理的近接性が重要になるのではないかということである。デバイス・メーカーにとっては、国内の近接地域に製造装置メーカーの研究拠点、マザー工場(そこの研究者、技術者)を持つことで、外国メーカーに対し、技術革新の上での優位性を確保できるのではないか。またDRAMのようなある程度成熟しつつあるデバイスにおいて、外国メーカーが規模の経済性に訴える大規模投資を敢行した場合も、国内製造装置メーカーは「投資需要が利潤を生む」といったマクロ経済的連関に則った分業に、相手国との摩擦なく携わることができる。

6 お わ り に

 本論ではこれまで、まず日本側(九州経済産業局)の日韓半導体分業論を分析し、そこでの「日本:高付加価値デバイス生産、韓国:低付加価値デバイス生産」という構図が、韓国側にとって受け容れがたいこと、すでに韓国も高付加価値デバイス生産の準備を進めていること、以上からこの日本側の分業論は無理があることを明らかにした。
 次に韓国側(三星経済研究所)の「モジュール比較優位に基づく分業論」を考察し、製造能力上の比較優位に基づいて、設計能力上の比較優位をもつ外国企業と「戦略的提携」することが「従属的競争戦略」に陥る可能性が高いことを明らかにした。
 そして日本半導体製造装置メーカーと韓国半導体デバイス・メーカーとの関係を分析し、技術的、産業連関的に両者が密接な関係、連携を事実上、構築しており互いの成長にとって不可欠な存在であることを解明した。そして日本国内に製造装置メーカー、その研究拠点、マザー工場(なによりそこでの研究者、技術者、労働者)、を持っことが日本の半導体デバイス・メーカーにとって決定的に重要であることを明らかにした。このことは裏を返せば、製造装置技術、研究・生産拠点を日本が支配する、韓国に渡さない、ということを意味し、超歴史的には互恵的でない関係という謗りを免れないであろう。しかし、現時点でシステムLSIなどデバイス部門での高付加価値化計画を具体化しつつも、装置部門については「材料、装置産業弱い、電子産業の内需基盤弱い」(三星経済研究所提供資料)という自己診断で停止している韓国半導体産業と資本主義的な(利潤と市場を長期に最大化できるような)分業を模索するとすれば、日本の半導体製造装置産業と韓国の半導体デバイス産業との「協調」「分業」関係はまだしも先行きのある関係であると思われる。
 最後に、今後の研究課題として九州北部地域の半導体製造装置関連企業群を調査し、韓国の半導体デバイス企業との貿易を通じた産業連関の実態、人的交流を通じた技術連関の実態を明らかにしたい。また、そういった九州北部の半導体製造装置関連企業群とその下請関連企業、部品製造企業との関係を調査し、投資需要の波及という側面からも半導体製造装置企業の意義と可能性を考察していきたい。

(注記)
1)本稿は先だって発表した拙稿「日韓半導体産業の新しい競争と協調」、九州大学『経済学研究』 第68巻、第2・3号、2001年に、加筆、修正したものである。
2)この点については『日本経済新開』2001年12月19日付を参照。
3)この点については『日本経済新開』2001年12月27日付を参照。
4)今回の「関門地域共同研究」による韓国調査(2001年9月19日〜26日)において、三星経済研究所を訪問した。そして尹鍾彦常務(技術産業室長)をはじめとする研究員の方々から有益な話と資料をいただいた。この場を借りて感謝の意を表わしたい。
5)半導体デバイス製品である大型液晶パネル市場をめぐる競争と協調の実能、価格設定、稼働率調整の詳細の事情については、拙稿「現代日本のIT産業における競争と協調−液晶部門における価格設定と稼働率調整を中心に−」、『下関市立大学論集』第45巻第1号2001年5月、を参照。
6)今回の「関門地域共同研究」による韓国調査(2001年9月19日〜26日)において、大田テクノマート(大徳バレ研究団地)を訪問し、金栽永業務理事他の先生方から有益な話を伺った。特に記して感謝する。その話の中で、IT産業の現状を、アメリカ企業が研究室レベルの特許を独占し、、韓国、日本企業は実用レベルの特許を持つが、これでは韓日のIT企業に利潤は生まれにくいとし、その上で、IT技術と既存のものづくり産業の技術の「組み合わせ」に現在の関心があることが語られた。
7)アメリカ企業とアジアのIT企業との間の「従属的競争戦略」関係については藤田実「日本のコンピュータ産業『二つの困難』と従属的競争戦略」、『経済』1999年2月が詳しい。
8)この点において三星経済研究所の見解は興味深かった。即ち過当競争の様相が色濃い部門においては「市場占有率で一位になる」ことが生き残りを保障する最大の条件である、とする見解である。そしてあとは、自然淘汰を待ち望むという内容が語られた。
9)ここでの「別個の仕様」とは装置本体の周辺部分に限られておりチヤンバー(本体)部分は装置メーカー固有のものとして触れられないようである(前田、前掲書、180頁)。
10)ここでの比較評価、コンテストの内容は、装置の基本性能の確認、プロセスの基本性能の確認、デバイスの評価用パターンウエハーを用いた評価、実デバイスに相当するウエハーを用いた歩留まり、信頼性評価、などである(前田、前掲書、180頁)。
11)この「チェック・リスト」の詳細は次のとおり。1.装置の基本仕様2.ファシリティ接続仕様(生産ラインに組み込む上での接続仕様)3.清浄度(洗浄方法、基準確認)4.安全基準5.基本装置性能チェック6.較正基準・方法7.設置作業スケジュール8.出荷・納入スケジュール9.サポート体制確認

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