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学長室より
2022年度下関市立大学春学期卒業証書・学位記授与式告辞
学長告辞
2022年度春学期卒業式
2022年度春学期の卒業証書・学位授与式において、下関市立大学は13名の卒業生を社会に送り出します。本日は卒業生の皆さんと卒業まで励まし支えてこられたご家族の方々に、大学を代表して心からお祝い申し上げます。
大学生活の中で様々なことを学んで、これから社会に出ていく皆さんの胸には期待と不安が入り混じっていることでしょう。本学で培った海峡の英知を以て、ぜひ一歩一歩自分の人生を歩んでください。しかし人生には、誰しも楽しくないときや立ち止まるときが必ずやってきます。最後に皆さんを送り出す私からは、そんな時にどうしたら良いかのヒントが得られる話をしたいと思います。
アルベール・カミュの『シーシュポスの神話』という話をご存じでしょうか。神々に課された罰によって、主人公のシーシュポスが、絶対に転がり落ちる岩を繰り返しある山頂まで運び上げ続けるという不条理の哲学を描いたものです。意味も無く、目的も無く、悲劇ではあるが絶望も無い時間です。
ほとんどの人間は、自分がやりたいことと給与、福利厚生などを天秤にかけながら、マッチする会社を探して就職します。入社したばかりの若いころは、新しいことや覚えることも多く変化を楽しめるかもしれません。それでも、慣れてくると普段の生活がルーティーンになり、毎日が起きて、食べて、会社から与えられた仕事をして、そして食べて寝るという同じことの繰り返しになってきます。そうすると、ふとある日突然「何でこんなことをしないといけないんだ。私の生き方はこれでよいのか。」と、意味が無いことに意味を求めてしまう。このギャップを、カミュは『不条理』だと説きました。その時は必ず来ます。私には関係ないと思う人もいるかもしれませんが、人間は「なぜ?」を問うから人間なのです。
もしもその時が来たら、ぜひ日常の中の小さなことから変化を試みてください。メイクや小物を変えたり、いつものお店で新商品を試したり、時には出勤ルートを変えてみるのも良いでしょう。同じことの繰り返しは、不条理を問う一方で安心感を与えてくれます。その安心を手放すのは怖く、変化や挑戦に恐怖はつきものです。だからこそ、まずは日常の中で失敗しても元に戻れるくらいの小さな変化を楽しんでみてください。
ぜひ皆さんには、世界的名著となった『チーズはどこへ消えた?(スペンサー・ジョンソン著)』のネズミになってほしいと思います。迷路の中で暮らしている、変化を怖がる小人2人と頭は良くないけれど探索し続けるネズミ2匹の物語です。彼らは昼夜を問わず来る日も来る日も、迷路内に点々とあるチーズを探して生きていますが、ある日、一生を過ごせるくらい大量の減らないチーズステーションを見つけます。すると、小人はチーズ探しをやめ悠々と暮らし、ネズミはそこを拠点にしながらも迷路の探索を続けました。そしてある日突然大量のチーズが消えたとき、ネズミは驚かず迷路の探索に戻り、小人はチーズが消えた原因を探しながら現状に不満を言い続けました。幸せなのはどちらですか?チーズが意味するのは皆さんの人生の成功や成果であり、迷路とは今を過ごしている社会を指しています。
どうか変化を恐れず、皆さんが逞しく未来を切り開いていくことを祈念して、2022年度春学期の卒業証書・学位授与式の告辞とさせていただきます。
2022年9月30日
下関市立大学 学長 韓 昌完