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理事長室より

京セラフィロソフィ(2014年7月8日)

 最近、稲盛和夫『京セラフィロソフィ』(サンマーク出版、2014年6月10日初版発行)という本が出版された。稲盛は京都セラミック(現京セラ)の創業者であり、第二電電(現KDDI)を設立し、両社の経営者として成功を収めた。さらに経営破綻に陥った日本航空の会長に就任し、経営再建を果たしたこともよく知られている。稲盛は、「京セラフィロソフィ」は会社の「宝」として、盛和塾(稲盛が若手経営者に経営のあり方を教えている経営塾)以外には門外不出としてきたが、京セラ創立55周年の節目の年を迎えて、これを自らの人生や経営に活かすことを切望している方々に提供してもいいのではないかと思うようになり、本書の出版に踏み切ったという。
企業と大学とは目的を異にしており、両者の「経営」のあり方は自ずと異なっているが、「経営」という点では共通するものがある。本書には、稲盛和夫という人物の生き方、考え方の原点とされる、京セラフィロソフィの78項目が収められている。本学の教職員、学生にとっても、人間として生きていくうえで学ぶべきところがあると考え、8項目を選択し紹介することとした。●太字が京セラフィロソフィの項目であり、続く文章はその説明である。

 京セラフィロソフィとは、実践を通して得た人生哲学であり、その基本は「人間として何が正しいのか」ということである。そして「会社というのはトップの器以上にはならない」「トップが持つ人生観・哲学・考え方、これがすべてを決める」と、トップの役割・資質を強調している。そして「人格がすばらしいからリーダーたり得る」としている。

●原理原則にしたがう 「京セラでは創業の当初から、すべてのことを原理原則にしたがって判断してきました。会社の経営というものは、筋の通った、道理にあう、世間一般の道徳に反しないものでなければ決してうまくいかず、長続きしないはずです」「どんな時代になろうとも、「人間として正しいものは何なのか」ということを基準として判断をしなければならない、それを私は「原理原則にしたがって判断する」と言っているわけです。」

仲間のために尽くす 「人の行いの中で最も美しく尊いものは、人のために何かをしてあげるという行為です」「このことは仏教で言う「利他行」に当たります」「京セラではあるアメーバが業績に貢献し、会社全体の牽引役となって仲間のために貢献したとしても、給料、ボーナスなど、金銭的に報いることはしていません。その集団に与えられるのは賞賛と賛辞だけなのです。」
・アメーバ経営:京セラでは、独立採算で運用されるアメーバごとに、一時間当たりの付加価値を生んだのかを示す「時間当たり採算制度」を採用している。

実力主義に徹する 「組織を運営していく上で最も重要なことは、それぞれの組織の長に本当に力のある人がついているかどうかということです」「本当に力のある人とは、職務遂行の能力とともに、人間として尊敬され、信頼され、みんなのために自分の力を発揮しようとする人です」「京セラでは年功や経歴といったものではなく、その人がもっている真の実力がすべてを測る基準となっているのです。」

公私のけじめを大切にする 「ささいな公私混同でもモラルの低下を引き起こし、ついには会社全体を毒することになってしまう」「私たちは、公私のけじめをきちんとつけ、日常のちょっとした心の緩みに対しても、自らを厳しく律していかなければなりません。」

倹約を旨とする 「私たちは余裕ができると、ついつい「これくらいはいいだろう」とか、「何もここまでケチケチしなくても」というように、経費に対する感覚が甘くなりがちです。そうなると、各部署で無駄な経費がふくらみ、会社全体では大きく利益を損なうことになります。そしてひとたびこのような甘い感覚が身についてしまうと、状況が厳しくなったときに、あらためて経費を締めなおそうとしても、なかなか元に戻すことはできません。ですから、私たちはどのような状態であれ、常に倹約を心がけなければなりません。」

チャレンジ精神をもつ 「チャレンジというのは高い目標を設定して、現状を否定しながら常に新しいものを創り出していくことです」「これには・・・・困難に立ち向かう勇気とどんな苦労も厭わない忍耐、努力が必要なのです」「「何々にチャレンジしよう」と言えば・・・・それは、格闘技にも似た闘争心を伴う戦いであることを意味します。」

人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力 「能力と熱意は、それぞれ零点から百点まであり、・・・・考え方とは生きる姿勢でありマイナス百点からプラス百点まであります」「人間としての正しい考え方をもつことが何よりも大切になるのです」「マイナスの考え方で生きれば人生の結果もマイナスになる。」

動機善なりや、私心なかりしか 「善とは、普遍的に良きことであり、普遍的とは誰から見てもそうだということです」「動機が善であり、私心がなければ結果は問う必要はありません。必ず成功するのです。」

 以上が、京セラフィロソフィ88項目から私が選んだ8項目である。稲盛和夫『敬天愛人』(PHP研究所、1997年、PHP文庫、2006年)は、京セラ哲学の根底にあるものとして、「動機善なりや、私心なかりしか」をあげ、「私はすべての判断の基準を「人間として何が正しいか」ということに置いている。・・・・人間として公明正大で天地に恥じることがないというような正しい行ないを貫いていこうということだ。これが京セラでは、私をはじめ全社員にとって最も根本的な行動規範になっている。・・・・事業を行なうプロセスには、事業を通じて「世のため人のため」という大義に尽くす姿勢がなければならない。この大義は私心の全くない、善なる動機から生まれてくるものである」と説明している(156~157頁)。ここには稲盛の経営哲学のエッセンスが凝縮されているといえる。8項目はどれもまっとうなことであるが、実践するとなれば、たいへん厳しいことばかりである。私も「人間として正しいものは何なのか」を、自らを省みる際の参照基準としたいと考えている。
 さて、現在の京セラの経営については、ホームページによれば、創業者・名誉会長の稲盛和夫の経営哲学を堅持し、経営の原点として京セラフィロソフィ、アメーバ経営、京セラ会計学の3つをあげ、社是として「敬天愛人」を掲げている。稲盛は「敬天愛人とは『西郷南洲翁遺訓』のなかにある言葉で、天は道理であり、道理を守ることが敬天である。また人は皆自分の同胞であり、仁の心をもって衆を愛することが愛人の意味である。また、京セラの社是でもある。」と記している(稲盛和夫『敬天愛人』6頁)。
 京セラの現況をみると、2014年3月期(連結業績)は売上高1兆4473億円、営業利益1205億円、売上高営業利益率8.3%であった。そして、中期的な経営目標(2018年3月期)として、売上高2兆円、税引き前利益2000億円以上、売上高税引き前利益率10%確保することを発表した(『日本経済新聞』2014年6月25日)。

 最後に稲盛和夫の著作のうち、私が読んだことのあるものを紹介する。
 稲盛和夫『燃える闘魂』(毎日新聞社、2013年)は、日本航空の再建については、「どんな苦労があろうとも、どんな困難に直面しようとも、全員の力でこれを乗り越え、必ず日本航空を再建しよう」と社員に訴えつづけ、社員の意識改革とアメーバ経営の導入などによって、奇跡と称される再建がなったとする。そして、日本再生にとって必要なのは、「負けてたまるか」という強い思い、いわば「燃える闘魂」である、と結論づけている。
 京セラフィロソフィに盛り込まれた「人間の生き方」を体系的に展開したのが、稲盛和夫『稲盛和夫の哲学―人は何のために生きるのか』(PHP研究所、2001年、PHP文庫、2003年)である。この本では稲盛の「哲学」を20の項目にわけて展開する。その項目は、(1)人間の存在と生きる価値、(2)宇宙、(3)意識、(4)創造主、(5)欲望、(6)意識体と魂、(7)科学、(8)人間の本性、(9)自由、若者の犯罪、(11)人生の目的、(12)運命と因果応報の法則、(13)人生の試練、(14)苦悩と憎しみ、(15)逆境、(16)情と理、(17)勤勉さ、(18)宗教と死、(19)共生と競争、(20)「足るを知る」こと、の20項目である。それぞれ稲盛の体験に裏付けられた考え方を簡潔にまとめている。
 京セラの躍進が注目され、そのアメーバ経営が関心の的となった。私は戦後日本の経済や経営についての講義も行うようになり、アメーバ経営にもふれたいと考え、稲盛和夫『アメーバ経営』(日本経済新聞出版社、2006年、日経ビジネス人文庫、2010年)を読んでみた。アメーバ経営は頭では理解したが、この方法が大企業で成功していることには半信半疑であった。その前提となっていた京セラフィロソフィの重要性には当時まったく気付かなかったからである。京セラのアメーバは、「経営環境に応じて自在に、組織、人数などが変化する」とされている(稲盛和夫『敬天愛人』112頁)。このような大企業病に陥らない柔軟な組織のあり方は、「欲張るな」「騙してはいけない」「嘘を言うな」「正直であれ」など、人間として当然守るべき、単純でプリミティブな教えに基づく京セラフィロソフィの基本的な考え方(京セラHP)があって、はじめて可能になったということである。