ホーム > 大学概要 > 理事長からのメッセージ > 理事長室より

学長からのメッセージ
理事長からのメッセージ
理念と歴史
3つのポリシー
教員研究業績・教員評価・授業評価
教育情報の公表(法定事項)
法人情報
シンボルマークとスローガン
教育活動
国際交流
卒業後の進路
広報
同窓会

理事長室より

「兄には兄の夢があり、僕には僕の夢がある」(2016年7月25日)

 孫泰蔵という人物を知っていますか。あのソフトバンク社長の孫正義氏の実弟です。わたしは泰蔵氏が正義氏の実弟であり、ソフトバンクグループで活躍していたことは知っていましたが、このごろ何をしているのかはよく知りませんでした。ネット配信「日経ビジネスONLINE」に「兄・正義が体系化した孫家秘伝のアイディア発想法」(「孫泰蔵の「ワイルド・サイドを歩け」」(編集協力:小林佳代)「日経ビジネスONLINE」2016年7月20日号)という記事があり、読んでみました。実はこの記事は「孫泰蔵の「ワイルド・サイドを歩け」」という連載記事の最新号でした。そこで2016年4月26日号から始まる連載をすべて読んでみました。いろいろと考えさせる内容を持っているのですが、ここでは大学の授業で注目されている「問題解決型授業」に関連して、孫正義氏の発想法を紹介することにします。

 まずは泰蔵氏のプロフィールです。東大経済学部に在学中の1995年12月に、泰蔵氏はヤフー創業者のジェリー・ヤンと出会い、大いに刺激を受けた。ヤン氏から「泰蔵、ヤフージャパンやってよ」と言われ、翌96年2月、ヤフージャパンの立ち上げを手伝うために、インターネットサイトの制作・運営を手がける「インディゴ」を設立して代表取締役に就任し、ネット起業家の草分けとして活動した。98年には、オンセール(2002年ガンホー・オンライン・エンターテイメントに社名変更、2012年パズル&ドラゴンズ(パズドラ)をリリース)の設立に参画したという。その後も様々な企業に関わり、今は、シリコンバレーのような「エコシステム」(生態系)の構築を提唱し、Mistletoe(ミスルトウ、宿り木のこと)を設立して、スタートアップ企業を投資・育成でサポートする活動に取り組んでいる。Mistletoeのミッションは「私たちが未来に直面する世界の大きな課題を解決するため、その課題解決に寄与するスタートアップを育てること」であり、いま支援している事業には、例えば、水循環システムに取り組むHOTARU(ほたる)、持ち運べるクルマのCOCOA MOTORS、視線追跡型バーチャルリアリティヘッドセットのFOVEなどがある(MistletoeのHPによる)。
 孫泰蔵氏は、いち早くインターネットの重要性に気づき、最先端でその活用を推進するとともに、未来課題に取り組む起業家の育成に傾注する、現代における夢追い人といってよい経営者です。

 さて、わたしが紹介したいと思ったのは、「孫家秘伝のアイディア発想法」です。孫正義氏は「米国に行って自分の人生を拓きたい」と決意し、日本の高校を中退して単身で米国に渡り猛勉強に取り組んだ。それは凄まじいもので、1日24時間のうち睡眠の6時間以外はすべての時間を、食事中も入浴中も移動中も、勉強にあてた。19歳で入学したカリフォルニア大学バークレイ校では、入学後も猛勉強を続けつつ、苦しい家計を助けるために「発明にチャレンジしよう」と思い至った。そこで1日18時間の勉強時間のうち15分だけ割いて発明を考える時間にあて、「発明ノート」をつくり、毎日1個の発明をすることを自らに課した。やがて行き詰ったが、つぎのような「1日1個、コンスタントに発明できる方法論」を編み出したのである。
 その方法論は、15分を5分ずつに分け、1)問題解決型発想法、2)逆転発想法、3)複合連結法という3つの発想法だった。
 第1の問題解決型発想法は、日々の生活の中で、「困った」「問題だ」と気づいたことをノートに書きとめる。毎日、ノートに記した問題のタネを眺め続けているうちに、インプットした技術や方法が結びつき、解決案が浮かぶことがある、という方法です。
 第2の逆転発想法は、単語帳にランダムに名詞を書きこんでおき、パッと開いてその単語を眺めて、特性を逆転させて考える。「冷蔵庫」という単語だったら、「白い」「四角い」「大きい」「重い」「冷やす」という特性があるが、それを逆転して「黒い」「丸い」「小さい」「軽い」「温める」という特徴を持たせたらどうかを考えるという発想法だ。
 第3の複合連結法とは、単語帳を2冊用い、同時に開いて2つの単語を結びつけて考えるというものです。例えば、1冊目の単語帳で「時計」、2冊目に「冷蔵庫」が出れば、「時計付き冷蔵庫」「冷蔵庫付き時計」の可能性を考えるという方法です。
 正義氏は、3冊の単語帳を用い、出てきた「関数電卓」「辞書」「スピーチシンセサイザー」という3つの単語を組み合わせて、「音声装置付きの多国語翻訳機」を思いついたそうだ。その特許を取得し、科学者らの協力を得て、自動翻訳機のプロトタイプを開発し、これをシャープに売り込むことに成功した。その売却資金で科学者らに成功報酬を支払ったうえで、ソフトバンクの前身となる会社の立ち上げが可能になった、ということでした(以上、前掲「兄・正義が体系化した孫家秘伝のアイディア発想法」による)。

 孫正義氏は立志伝中の経営者であると同時に、新しい分野に果敢にチャレンジしていく経営者ですが、その原点は、ノートや単語帳を使った具体的な発想法にあったというのは驚きでした。これなら若者であれば誰でも可能な発想法でしょう。問題は、起業という観点からみれば、このような発想を繰り返すなかで、単なる思い付きにとどまらず、発明を起業化つなげることができるかどうかにあるといえます。現在、多くの大学が問題解決型・課題解決型学習に取り組んでいますが、「孫正義流の発想法」は、課題発見の手がかりを得るうえで有効な方法といえます。そして何よりも学ぶべきは、発明(課題発見)を製品化すること(問題解決の方策を見出すこと)にあらゆる努力を傾注するという意志の強さであろう。
 なお、本稿のタイトルは、「孫正義の弟、ガンホー創業者・・・異端の経営者の“正体”「金に執着しない」経営で大成功」(Business Journal 2015.05.01)及び北原謙二「若いふたり」の歌詞を参考にしたものです。